「初めての武奈ヶ岳」

いつもの山仲間から、ひさしぶりにお誘いがあった。
「武奈ヶ岳に登りましょう!」
「蒸し暑い毎日だから、涼しいところで、滝の周りをチョコチョコっと
巡って登りましょう!」
武奈ヶ岳は、日本二百名山、近畿百名山に選ばれる比良山系の
最高峰として君臨する1214メートルの知る人ぞ知る美しい山である。
隊長のSさんは、近隣の山のお誘いでも、簡単な山の場合などは
普通のコースではなく、わざと回り道などしてそれ相当の設定をする
人物である。
彼は、おそがけに始めた山登りとはいえ、相当の経験をしている
ベテランクライマーである。
ほぼ登山初心者のかずぼうとしては、自分の能力の少し上のコー
ス設定にならざるをえない。
"滝の周りをチョコチョコっと歩く”ってか!!
本心は少しびびっていた。
コースは朽木村とか安曇川近くにある滋賀県高島市、琵琶湖西部
のガリバー青少年旅行村が登山口である。
そこから八淵の滝のある大擂鉢を経て、貴船の滝、七変返しの滝
を過ぎ、比良山スキー場跡、八雲ヒュッテ跡にたどり着く。
登り始めてからすぐに、「八淵の滝方面は、鎖場、綱場がありますの
で初心者の方は他へおまわりください」の看板が目につく。
隊長に、「大丈夫ですか?」と聞くと、「たいしたことあらへん!」のひ
と言。
しばらくすると、ザーザーと滝の音が聞こえる。
水にぬれた岩は滑りやすい。
"3点確保”、”岩に近づきすぎるな!”、”足場を確認”と隊長の罵声
がとぶ。
「三点確保」とは、岩登りによく使われる言葉で、手足4本のうちのど
れかを動かすときに、残りの3点を確保しておくことである。
当たり前のことではあるが、これをきちんと守らないと不安定で滑落
の恐れがある。
体を岩に近づきすぎる、即ち岩にへばりつくようになると、足場に体重
がかからず不安定になるし、次のひっかかりに手を上げ過ぎるようにな
るので、疲れるし安定しないのである。
これらは実践してみてよくわかった。
やっとのことで、比良スキー場跡についたのであるが、かずぼうは慣れ
ない岩登りで疲れきっていた。
やはり余分の力を使い、余分の神経を使ったのであろう。
それに、メタボの肉体は、10キロの鉛をハンデにおなかに抱えていると
いえよう。
憔悴しきったかずぼうに、隊員その一さんは、心配そうに言う。
「かずぼうさん、無理しなくてもいいのよ。ここで弁当を食べてゆっくり
休んで、帰ってしまってもいいのよ・・・」
隊員その一も、毎週でも山登りに行くというベテランクライマーである。
(かずぼうは一応、隊員その二である)
あと2時間くらいで頂上と聞く。
遠くに武奈ヶ岳の頂上が青空にくっきりと浮かんでいる。
おにぎりをひとつ食べ、お茶をグビグビとのどに流し込む。
リュックを下ろし、流れ出る汗をタオルでふいて、ひと息つく。
「大丈夫です!行きます!」
不安を抱えながら、自分に負けてなるものか!と勇気を奮い起こす。
そこからは、イブルギノコバを経て頂上を目指す。
なんと2時間はかかりそうだったが、1時間あまりの行程だったのだ。
ああ、助かった!
頂上は、名山なので結構な人だかりである。
「ばんざーい!!!」とうとう念願の武奈ヶ岳頂上に立ったのである。

あいにく眺望はガスにかかってイマイチであったが、達成感は最高だ!
缶ビールで乾杯のあと、隊長の準備の冷麺に舌鼓を打つ。
帰りは、イブルギノコバでアシウスギ(芦生杉)の群に出会う。
「でっけーなあ!」何百年も生きているのだろう。
幹周りは5~6メートルはあろうか、貫禄である。
日本海側の多雪地帯に自生する杉の変種で、まっすぐに伸びずに
幹の下部から大枝を出すのが特徴という。

くだりは、少し八淵の滝とかを横切ったが、大体は単調なもので2時間
あまりの行程であった。
途中、せみの合唱に暑苦しさを感じたり、小鳥のさえずりに聞きほれ
たり、汗ばむ体に自然の冷風を浴び快感!を感じたりした。
登山後は、足はガタガタ、手はコリコリ、腰はヨロヨロのわが身を朽木
の温泉「てんくうの湯」でほっこり。
おかげさまで今回も大満足の山行きとなったのである。




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